体験談 #01
43歳で初めて中折れした夜の話
あの夜のことは、今でもはっきり覚えている。
10月の終わりだった。
出張で大阪に来ていた俺は、妻が珍しく合流してきた。
子どもを実家に預けて、「久しぶりに二人でゆっくりしたい」という話になったのだ。
結婚8年目。こういう機会は本当に久しぶりで、俺自身も楽しみにしていた。
夕食は少し奮発して、雰囲気のいい店を予約した。
ワインを飲みながら、仕事の話、子どもの話、昔の思い出話。
妻がよく笑っていた。
こんなに二人で話したのはいつぶりだろうと思いながら、俺も素直に嬉しかった。
ホテルに戻ってから、自然にそういう流れになった。
そのとき初めて気づいた。
「あれ、なんか……おかしい」
勃起はした。でも、いつもと違う。力がない。
途中でふっと抜けていく感覚。
焦れば焦るほど、体は言うことを聞かなかった。
結局、うまくいかなかった。
妻は何も言わなかった。
「疲れてるんだよ、気にしないで」と言ってくれた。
それが余計に辛かった。気を遣わせていることがわかったから。
その夜、妻が眠ったあと、俺はしばらく天井を見ていた。
「疲れのせいだ」と自分に言い聞かせた。
出張続きで睡眠も足りていない、飲みすぎた、そういうことだと。
でも正直なところ、心のどこかで「これは違う」という感覚があった。
うまく言葉にできないが、ただの疲れじゃないと、体が知っていた。
「まあ、次は大丈夫だろう」と思っていた
翌朝、二人で朝食を食べて、何事もなかったように過ごした。
妻は明るく振る舞ってくれていた。俺も普通にしていた。
でも、心の中には小さなしこりみたいなものが残っていた。
その後しばらくは「あれは特別な状況だったから」と思うことにした。
出張の疲れ、慣れない場所、緊張。理由はいくらでも作れた。
実際、次の機会は何事もなかった。「ほら、やっぱり気のせいだった」と安堵した。
でも…また起きた。
三ヶ月後のことだった。
今度は自宅で。疲れてもいないし、飲んでもいない。
なのに、あの感覚がまた来た。途中でふっと抜けていく、あれだ。
そこで初めて「これはもしかして……」と思い始めた。
「ED」という言葉を検索したくなかった
スマホで調べようとして、何度もやめた。「ED」という言葉を検索することへの抵抗感があった。
認めたくなかったのだと思う。
自分がそういう状態にあることを、文字にしたくなかった。
あなたも同じ経験があるだろうか。
調べたいけど、調べたくない。知りたいけど、知りたくない。あの感覚。
結局、シークレットモードで調べた。
深夜に、誰にも見られないように。
出てきた情報は多かった。「40代からED急増」「男性の3人に1人が経験」「心因性と器質性の違い」。
なるほどと思いながら読んだが、どこか遠い話のように感じた。
自分のこととして受け入れるには、まだ時間が必要だった。
一つだけ、刺さった記事があった。
「中折れは、体からのサインです」というタイトルの記事だ。
ED薬の広告記事だったけど、その一文だけは本当のことを言っていると思った。
体が何かを訴えている。それは間違いない。
でも俺は、その日は何もしなかった。タブを閉じて、寝た。
そこから2年間、ひとりで抱えることになる
あの夜の「初めて」から、俺はずっとひとりで抱えていた。
妻には言えなかった。心配させたくなかったし、情けない姿を見せたくなかった。
クリニックに行くのも躊躇った。
「ED外来」という看板のある病院に入っていくのを誰かに見られたら、という気持ちが先に立った。
プライドが邪魔をして、誰にも相談できなかった。
そして気がついたら2年が経っていた。
その2年間のことは、また別の記事で書く。
どれだけ消耗したか、どんな気持ちで過ごしていたか、そして最終的にどうやって動けるようになったかを。
今日は「あの夜」のことだけ書きたかった。
43歳の10月。
大阪のホテル、あの天井。
同じような夜を過ごしたことがある人に、「俺もそうだったよ」と伝えたかった。
それだけだ。